盛岡市長選挙雑感

2023年8月13日に行われた盛岡市長選挙は新人の内舘氏が現職の谷藤氏の6選を阻む形で勝利した。

谷藤氏が初当選した時、盛岡の新聞では「民間出身の市長の誕生」としてもてはやしていたが、彼は市長になる前は岩手県議会議員であり、それまでの市長が市役所の幹部出身だったのを考慮しても、政治家を民間出身と言うのは何か語弊がある気がした。この民間出身の市長と言うワードは2019年の市長選挙で谷藤氏も使用している。曰く「38年ぶりに誕生した民間出身市長」である。

世間では、6選を嫌った市民の票が新人に流れたと言われているが、3選まではほぼ選挙は無かったのでまともな選挙は4選目からだ。

 

1選目は現職の桑島氏と小説家の斉藤氏、それともう一人の候補をくだし初当選。2選目は泡沫候補との対決。3選目は実に60年振りの無投票だった。4選目は政治経験無しの新人との対決、5選目は新人2名との対決だが、こういう時は現職が有利なので新人に対して僅かな差をつけて勝利した。

5戦目では新人(内舘、福井)がおよそ5万票と2.1万票得たのに対し谷藤氏5.4万票である。因みに2.1万票を得た新人は現職と同じ元県議である。

4戦目では新人が5.1万票に対し現職が6.8万票。4戦目と5戦目で新人(内舘)の得票数が変わらないのに対し、谷藤氏の票が1.4万票も減っているので、仮に4戦目と5戦目の候補者数が入れ替わっていたら新人(福井)と現職で票が割れ、谷藤氏は3期で終了、内舘氏は辛勝という結果もあったかもしれない。

ちなみに、2選目の芦名氏との対決では、なんと氏が1万票以上獲得した。芦名氏は知事選、市長選、県議選など節操無しに立候補する泡沫候補なのでどの選挙でも当選する事は無かったし、毎回大差で落選していた。

芦名氏が出馬した2回の県知事選挙での得票率は、総票数の3%と2%とそれぞれ最低。だが現職市長との一騎討ちとなった市長選挙ではなんと総票数の2割弱の18%を獲得しているのだ。絶対に現職が勝つと誰もが思っているので、安心して泡沫候補に入れた人も多いと思うが、県議会議員選挙では4000名程度で終わっていた人が市長選挙では12,000票を獲得してしまったと言う事実は、もっと重視してもいいだろう。

 

話は変わるが、これを機に谷藤盛岡市長が市長として在籍中の20年間に、どんな政策を掲げ、何をしてきたのか何をしなかったのか検証する必要があるだろう。これは去る人間の責任追求という事ではなく、これからの市長選挙や市政運営の為である。

試しに、2015年の盛岡市長選の政策で谷藤氏は、生活道路の除雪率100%を掲げていた。在籍最後の冬だった2022年の状況はどうだったろう?盛岡に限らず、除雪は雪国では大きな問題である。今回の選挙では、内舘氏も政策として直営チームの徹底的な除雪を掲げている。

生活道路の除雪100%と市民からの情報を直営チームに一元化するというのは内容が違うが、結局のところ、冬でも通りやすい道を維持すると言う点で両者の政策は一致しているのだから、前市長はこの政策にどう挑んだのか、あるいは挑まなかったのか研究しても無駄ではないと思う。むしろ研究しないと選挙の度に争点でもない争点に市民は踊らされる事になるのである。

また、市長の政策として実現したのか、それともたまたま時期が合い、民間が勝手にやったことなのに、まるで市長の政策が実現したかのように語られているものなども注意する必要がある。

基本的に元市長と新市長の政策を比べてみてもあまり違いは無い。

子育て支援、高齢者福祉の充実、地域コミュニティーの活性化、国際化の推進、人材育成、雇用の創出、地元ブランドの展開、どちらの政策内容も大同小異である。

今回の選挙で谷藤氏は盛岡南地区整備による5000人の雇用創出と言う政策を掲げていた。

20年も市長やっていたのだから、これまでの実績を提示して欲しい所である。肌感覚として、谷藤市長時代20年の間に、働きやすい、あるいは採用されやすいといった感覚はなかったし、男性でも、正社員採用が無く、やむなくフルタイムのパートをしているという人が増えたように思う。おそらくこの国全体の状況としてもあまり変わりないと思うし、盛岡の状況だからと言って、市長に文句を言うのも若干筋違いだと思うが、市長の政策として掲げて当選しているのだから、検証する価値はあるだろう。

 

さて、今回当選した内舘新市長の政策である。

公報ではまず退職金3160万円のカットが掲げられている。これは自ら受け取らなければいいだけの話なので、簡単に実現できるだろう。

盛岡ブランドを世界に発信し外貨獲得

外貨獲得まで前市長が言っていたかは記憶していないが盛岡ブランドに関しては前市長からの継続とみていいだろう。内容もそれほど変わったものではないと思う。もしこの政策について何か進展があったのならば、新市長単独の成果と言うより営々積み上げてきた物が新市政のタイミングで結実したと見るべきだろう。

地元企業の支援、雇用について

地元企業の売上利益アップ地元上場企業+3社。地元上場企業というのがまさか銀行3行のことを指していると思えないので、地場資本ドラッグストアのことなどを言っているのだと思うが、民間企業に対して市が売上UPに踏み込むのはなかなか勇気があるなと思う。

起業4年間で1000社と言う政策も具体的な数字があるのは大変いいが、1営業日に1社起業しなければ間に合わない数字である。公約に掲げている起業の定義がいまいちわからないので、もしかすると市民が思っている起業とは違う(メルカリに商品を出したなど)ものまで、起業とカウントしないか若干心配ではある。

ボランティア活動を行う団体に対し、活動に利用できるポイントの付与

おそらくボランティア団体としては、ポイント付与ではなく、現金を給付してほしいのではないだろうか。しかも市内で利用できるポイントの付与である。直接の現金給付だと時間がかかったり、条例を整備したりしなきゃいけないので、そこを避けると言う意図があるのかもしれないが、順調にいったところで当のボランティア団体に喜んでもらえる制度なのか疑問が残る。2019年の選挙では「対話」と「検証」を掲げているのだが、果たしてどうなることやら。そもそも、ボランティア団体が行っている事は、本来自治体として福祉活動としてやらなければいけない事ではないのだろうか。子ども食堂というのはまさに自治体が放置している子供の貧困対策である。

他にもミニバスの運行、返済不要の奨学金など実施したい事が沢山ある様だが実施するにしてもしないにしてもプロセスを透明化して欲しいと思う。今回の公報では掲げられていなかったが、2015年の市長選挙で内舘氏が掲げていた政策とも一致するだろう。

いずれにしろ本当の民間出身の市長が誕生したのである。破天荒な所も、役所のルールや議会のしきたりも知らずにやりたい事が出来ない事もあるだろうが、辞職しない限り4年は内舘市政になるのだから、余計な事ばかり行なってなにも良くならない市政より、4年で良い方に変わったと言われる方が市民にとっても良いのだから新市政を応援していこうと思う。